[プレスリリース] 地域のアリ類を味方にする世界初の「選択的防除」ー侵略的外来アリの防除に成功ー
- 2025年12月8日
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吉村正志(Ryukyu Nature Positive代表)を中心とする研究チームは、特定外来生物ハヤトゲフシアリに対し、地域に生息する他のアリ類を弱らせずに標的種だけを効果的に減らす、新しい「選択的防除技術」を開発し、その有効性を科学的に検証しました。本研究は、沖縄島の那覇市を通る国道331・332号沿いでの当該アリ種防除実施過程の詳細なデータ解析を通じて、極めて少量の薬剤投入で標的種の勢力を大幅に低下させ、既存アリ類の抵抗力を維持しながら侵略的外来アリの排除につなげられることを示したものです。
本成果をまとめた論文が、このたび国際学術誌PLOS Oneに掲載されました。今回の成果は、これまで報じられてきた現場での「抑え込み成功」を学術的に裏付けるものであり、その科学的基盤を提供するものです。

1.研究背景:なぜ「選択的防除」が必要なのか?
対侵略的外来アリの防除では、一般的に殺虫剤の広域散布や、外来・在来を区別しないベイト殺虫法が用いられます。しかし、侵入初期の地域では、地域既存のアリ類の存在そのものが侵略的外来アリを跳ね返す「生物学的抵抗性」として重要であり、無差別な薬剤投入はその抵抗性を弱め、むしろ外来種の拡大を助けてしまうことがあり問題視されてきました。特に周辺に侵略的外来アリが残存している場合、防除エリアのアリ類が弱体化すると周辺地域からの再侵入を防げないというリスクもあります。
こうした背景から、本研究チームは「地域のアリ類の力を利用して外来アリを抑える」新しい発想で、沖縄県那覇市に定着したハヤトゲフシアリLepisiota frauenfeldiの防除に取り組みました。
2.本新手法のポイント:「既存アリ類を弱らせず、標的アリだけを減らす」精密な防除設計
(1)標的種の行動と食性などの生態学的特徴を最大限活用
ハヤトゲフシアリは雑食性で、ひとつのコロニーに複数の女王と複数の巣をもつ強力な侵略者です。当該種はその繁殖力と攻撃性で周囲の餌資源を素早く占有し、他のアリ類を排除することが分かっていました。そこで、ベイトを配置する位置とその成分をハヤトゲフシアリに最適化することで、ハヤトゲフシアリに対して優先的にベイトを持ち帰らせることに成功しました。
(2)昆虫成長制御剤(IGR)を低濃度で配合した「種特異的ベイト」
タンパク質および糖類をあえて分離した特製ベイトに、昆虫の成長阻害剤ピリプロキシフェンを微量添加。環境への影響を最小化しつつ、ハヤトゲフシアリの次世代生産を確実に低下させることに成功しました。
(3)巣口付近へのベイト配置
毎月の調査でハヤトゲフシアリの巣口位置を特定し、巣口の極近距離だけにベイトを配置することで、非標的種である他のアリ類による持ち去りを最小限に抑えました。
(4)全アリ種の増減を詳細に観測
毎月の現地調査でハヤトゲフシアリだけでなく、防除エリア内のすべてのアリ類を詳細に記録。標的種への防除効果と、防除に伴う非標的種の変化を観測することに成功しました。
3.本新手法による成果:ハヤトゲフシアリ出現確率が92%減少 → その後、エリアから完全消失
約1.6ヘクタールの防除エリアで44か月間、単位時間採集および粘着トラップによるアリ類モニタリングを実施した結果、以下のような成果が得られました。
(1)ベイト剤の効果により、ハヤトゲフシアリの出現確率は約92%減少。
(2)防除エリア内において、最終的にハヤトゲフシアリは消失。
(3)防除エリア内の非標的アリ類は維持され、ハヤトゲフシアリを除くアリ類の構成にはほぼ変化なし。
(4)一部の非標的アリ類については、出現頻度が増加(ハヤトゲフシアリの減少により空いたニッチを既存アリが再占有したと推測)。
(5)使用した薬剤は従来の広域散布より大幅に減量(5,000分の1以下)。
特に、非標的アリ類が空いたニッチを再占有することで、標的外来アリ種への「排除圧力と再侵入への抵抗力」が強化された点は世界的に見ても重要な知見です。

4.本研究の社会的意義:防除と環境負荷軽減を両立し得る新たな選択肢を提示
本研究において達成したハヤトゲフシアリの選択的防除による排除事例は、今後の侵略的外来種アリ類対策や生物多様性保全を実施するうえにおいて、以下の点で意義深いものです。
(1)侵入初期の限定的な分布域など、侵略的外来アリ類の早期防除手法への新たな選択肢の提示。
(2)保全対象種が生息するエリアなどでの、侵略的外来アリ類防除への適応可能性。
(3)薬剤を使用した侵略的外来アリ類防除に伴い生じる環境負荷の、大幅な低減に繋がる可能性。
(4)機関横断的で柔軟な協働枠組みの重要性。本調査区におけるハヤトゲフシアリの抑え込みは、本研究に直接参画した「産」(Ryukyu Nature Positive、住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社)「学」(沖縄科学技術大学院大学、琉球大学)「官」(環境省沖縄奄美自然環境事務所、那覇市環境保全課)組織のほか、沖縄総合事務局道路管理課および南部国道事務所、沖縄県環境部自然保護課、そして在沖米陸軍といった目的を異にする組織が、横断的な協働体制を構築したことで達成したものです。特に、当研究チームからの技術提供に基づき、非公式な協働ながら足並みをそろえて実施された在沖米陸軍による那覇軍港内のハヤトゲフシアリ防除事業は、このエリア全体の抑え込みにおける重要な貢献のひとつになったと言えます。
5.論文情報(オープンアクセス)
Yoshimura M, Suwabe M, Tsuji K, Baba Y, Kakazu H, Miyagi T, Ogasawara M, Uematsu J, Economo EP, Ono K (2025) Maximum effect with minimum impact: A new selective control strategy for the Browsing ant Lepisiota frauenfeldi (Formicidae: Formicinae) minimize the impact on non-target species. PLOS ONE 20: e0337230. doi:10.1371/journal.pone.0337230.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0337230
6.これまでの関連報道等資料
●(お知らせ)沖縄県那覇市におけるハヤトゲフシアリの確認について
●生態系崩す「侵略的外来アリ」駆除へ 沖縄で巣ごと作戦スタート
●沖縄県外来種対策行動計画に基づく ハヤトゲフシアリ 防除計画
●OKEON 美ら森プロジェクト - ハヤトゲフシアリのモニタリングと防除
●学会発表要旨:外来種防除、研究から実装へ〜沖縄新規定着外来種ハヤトゲフシアリを例に〜
●那覇市定着の特定外来生物ハヤトゲフシアリ防除について-産学官連携の取組により、抑え込みに成功-
●特定外来生物のアリ抑え込みに成功 産学官が連携 沖縄
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